ホームシアターの革命、Dolby Atmosの衝撃(後編)
前編では、「Dolby Atmos」(ドルビーアトモス)の技術概要とその効果について取り上げた。後編では、ドルビーの発表会場でデモンストレーションを行ったAVアンプメーカー4社の各モデルに加え、「ドルビー・イネーブルド・スピーカー」や「アップミックス」といった周辺技術も合わせ、AV評論家・麻倉怜士氏のインプレッションをお届けしよう。
麻倉氏: 今回は直前に製品を発表したオンキヨー、D&Mホールディングス(デノン)、ヤマハ、パイオニアの4社がデモを行いました。中でもオンキヨーは「ドルビー・イネーブルド・スピーカー」を含めて提案した唯一のメーカーです。
まず、「ドルビーアトモス」と「ドルビー・イネーブルド・スピーカー」を簡単に復習しておきましょう。ドルビーアトモスは、音をオブジェクト化する「オブジェクトオーディオ」の手法と天井スピーカーを組み合わせ、従来のサラウンドとはまったく違う三次元空間での正確な音像定位を実現しました。単に上方向に音場を広げただけではない、という点は憶えておきましょう。
しかし一般家庭で天井に2~10個ものスピーカーを設置するのは難しい。このため、フロントやリアのスピーカーの上に“斜め上向き”のスピーカーを置き、天井からの反射を利用して天井スピーカーを再現する「ドルビー・イネーブルド・スピーカー」技術を開発しました。しかも単純に音を反射させるのではありません。ドルビーの長年にわたる人の聴覚研究を元に、頭部伝達関数を応用して人が“音が振ってくる”感覚を濃密に得られるようにしました。米DolbyのBrett Crockett(ブレット・クロケット)氏は、「高周波領域は頭や耳、肩の反射で変わりやすい。音の周波数特性も少し変え、反射してくるのにあたかも天井から発音して聞こえてくるような音になる」と話していました。つまり、「ドルビー・イネーブルド・スピーカー」は、単に斜め上を向いたスピーカーを指す言葉ではなく、事前の信号処理を含む技術の総称なのです。
――なるほど。その技術がドルビーアトモス対応のAVアンプには入っているのですね。オンキヨーブースでは、斜め上向きの小型スピーカーを使っていました
麻倉氏: 天井スピーカーは小さく、設定ではスモールにします。するとベースマネジメントが入って、一定以下の周波数帯域はサブウーファーに受け持たせる仕組みになっています。フル帯域でないのに完全な音場は保てるのか? とクロケットさんにたずねてみましたが、サブウーファーが受け持つ帯域は指向性を持たないため、決して音像が乱れることはないということでした。また、一部メーカーは天井スピーカーを「ラージ」指定を推奨しています。
●オンキヨー
麻倉氏: さて、オンキヨーブースは天井スピーカーを用いた7.1.4chと、「ドルビー・イネーブルド・スピーカー」でサンプルコンテンツの聴き比べを行いました。鳥が視聴者の周りをぐるりと一周するものですが、天井スピーカーの音は非常に明快で、音の方向もはっきりと感じられます。一方のイネーブルド・スピーカーでは、360度飛ぶことは感じましたが、下と上のスピーカーのつながりがいまひとつ。もう少し緊密になると良いと思いました。
それでもイネーブルド・スピーカーはかなり使えそうです。位置の正確性はともかく、空間そのものから出てくる感じでいうと、空間の厚みや広さを感じられたような気がします。天井スピーカーの直接的な音は魅力ですが、イネーブルでも家庭用としては十分使えると思います。
●ヤマハ
麻倉氏: ヤマハブースでは、サブウーファーを2つ設置した7.2.4構成で試聴しました。AVアンプは「RX-A3040」で、スピーカーは“Soavo”シリーズで統一されていました。
まず感じたのは音の良さ。AVアンプの場合、音場と音質の2つが大事になります。これまで音質をブラッシュアップさせてきて、今回のドルビーアトモスでは音場に注力していますが、やはり音質も大事だと思いました。音場が持つエネルギーをアップするかのようです。ヤマハは製品発表が他社よりも遅かったのですが、ヤマハらしい切り口でまとまりのよい製品を出してきました。
ただ、もう少し下のスピーカーと上のスピーカーのつながりが良ければ、より立体的な音場が形成できると思います。試聴した部屋との関係などあるので一概には言えませんが、ヤマハは既にハイトスピーカーを提案する「DSP-HD2」を何年も前に提案していますし、何年もDSPを研究してきました。しかし今回は、自社のDSP技術とドルビーアトモスの連携は行っていません。今後はDSPの活用が1つの課題だと思います。
●デノン
麻倉氏: デノンブースは9.1.4の構成でした。以前、デノン本社のリスニングルームでも体験したのですが、そのとき天井スピーカーはスクリーンの上に2つ、リアスピーカーの上に2つの合計4つが設置されていました。つまり、従来のフロントハイトスピーカーをそのまま流用していたのですが、それもドルビーのスペック要件では許容されています。
今回のデノンのシステムはそうではなく、標準的な下向きの天井スピーカーでした。音場の再現性は標準的でしたが、“部屋の大きさ”を感じられる点が印象的でした。例えば鳥が円形に回る鳥が、スクリーンサイズよりも大きく回っているように感じられるのです。
もう1つ、「アップミックス」のデモも用意していました。アップミックスというのは、従来のドルビーTrueHDソースのBDで、ドルビーアトモスのスピーカー配置に合わせた処理を行い、天井スピーカーも使って再現する再生モードです。ドルビーアトモス対応コンテンツがなくてもそれなりに楽しめるわけです。
確かにオリジナルのドルビーアトモス対応タイトルに比べると上空の定位感は少し“あやふや”ですが、天井スピーカーがないケースと比較するとまったく違います。デモに使用したのはアニメ映画「スカイクロラ」のBDでしたが、例えば後ろから前に飛行機が通過しながら離陸していくシーンで、音の軌跡がはっきりと輪郭を持って感じられました。作品にもよると思いますが、これは効果が高いと思います。
●パイオニア
麻倉氏: 最後はパイオニアです。実に緻密(ちみつ)な音場で、下のスピーカーがしっかりと鳴り、天井スピーカーも同調して働いている印象。地面から音が立ち上がり、その雰囲気を残しながら、頭上を音が舞う感じを得られました。とくにパイオニアの独自技術である「フルバンド・フェイズコントロール」をオンにすると、さらに濃密な音像になり、しかもスピーカーの存在を感じなくなります。スピーカーのない場所からも音が聞こえるのです。長年パイオニアが開発してきた技術は、今回のドルビーアトモスではたいへん効果が出ていると感じました。
もう1つはアライメント。今回はフロントスピーカーに特性を合わせる“フロントアライン”でしたが、そうすると見事に音の解像感が上がりました。パイオニアは以前からサラウンドにおいては部屋との関係やスピーカー間の協調性といった点が重要であると言い続けてきました。これまで、そのありがたみを感じる機会は少なかったのですが、ドルビーアトモスではこれまでの地道な努力が一気に花開いた印象です。
――最後にドルビーアトモスの登場した意義についてお願いします
麻倉氏: 映画における音の表現で、ここまで精密に制作者の意図に迫ることができる技術はこれまで存在しませんでした。クリエーターにとって、自分の思いを100%以上込められるシステムであり、ユーザーにとっては家庭内でも、劇場そのものではありませんが、そのエッセンスを十分に体験できます。映像だけでなく、音声からもクリエーターの意図が伝わってくるわけです。これはやはり大きな革命ではないでしょうか。
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