「アイスバケツチャレンジ」にある種の「いかがわしさ」を感じてしまう理由
城島茂
今年も『24時間テレビ 愛は地球を救う』が感動のフィナーレを迎えた。TOKIOのリーダー・城島茂さん(43)がヘロヘロになりながら足をひきずって歩いている姿は同世代としていたたまれないものがあったし、子どもの時にいつも見ていた「チャラ~ン」の林家こぶ平さんが闘病されている様子などはグッとくるものがあった。
城島茂
出演タレントが高額ギャラをもらっているだとか、寄付金の使途が不透明だとかという批判や、これでもかというお涙頂戴(ちょうだい)のあざとい演出に嫌悪感を示す人も多い『24時間テレビ』だが、個人的には「まあこういうのもアリだよなあ」という感じがする。
地道な活動をされている方たちからすれば、神聖なチャリティを売らんかなのお祭り騒ぎにしやがってという批判をしたくなるのも分かる。
だが、平時ならばあまり注目を集めない難病や被災地にスポットがあたって、実際に募金も寄せられる。いろいろと批判の多い「アイスバケツチャレンジ」(筋萎縮性側索硬化症(ALS)を研究するために、バケツに入った氷水を頭からかぶるか、ALS協会に寄付する運動のこと)も然りだが、タレントの売名行為だろうが企業PRだろうが、埋もれている問題に目を向けさせて、しかるべき団体にカネが集まったというのは動かし難い事実だ。実際に日本ALS協会に寄せられた募金は、昨年同時期の10倍になったんだとか。
その一方で、この手のチャリティを「いかがわしい」と思う人々がワーワーと声をあげ始めているというのも、喜ばしいことではないかとも思う。これまで日本では「善いことをやっている」というだけで、世の中からかなり大目に見られてきたからだ。
正しいことをやっているんだから細かいところは目をつぶれよ、みたいな考えがスタンダードで、それにちょっとでも異を唱えると、「キー、こんな人権侵害許せない! 朝日新聞に投書してやる!」みたいにヒステリックな声に袋叩きにされる、ということが繰り返されてきた。
要は、「善いこと」をしているだけでどんなデマカセも信じられてしまうのだ。典型的なケースがあるのでご紹介しよう。
●「小さなキセキ、大きなキセキ」を実践
2002年夏、黄色いTシャツならぬ青いTシャツを身にまとった「善意の人」が日本全国を駆け回ったことがある。
名前は仮にXさんとしておこう。沖縄県那覇市のNPO「沖縄国際平和村建設実行委員」の代表を務めるXさん(当時54歳)は、地元の子どもや修学旅行生に沖縄戦の悲惨さを伝えるなどの平和教育に尽力をするかたわらで、地雷被害児に先端医療を受けさせる施設「平和村」の建設のため募金活動をしていた。建設費用はおよそ10億。インターネットでどうにか1億は集めたが、まだまだ足りない。そこで、青いTシャツを着て自転車で全国行脚をすることで建設費を募ろうとした。24時間テレビでいうところの「小さなキセキ、大きなキセキ」を実践しようというわけだ。
そんなの非のうちどころのない「善意の人」をマスコミが放っておくわけがない。それに拍車をかけたのが、Xさんが語る自身のドラマチックな半生だ。
Xさんは30年前、ベトナム戦争下のインドシナ半島で、地元民の医療を支援する米国の医師団に出会った。「命の危険も顧みず、苦しむ人を助ける活動に加わりたい」。米国で医師免許を取りニューヨーク市立病院の脳神経外科医になった。有給のまま医療ボランティアとして紛争国に行くことができた。カンボジアやインドネシア、アフガニスタンを回った。「国境なき医師団」に参加したこともあるという。だが、3本ある心臓の動脈を病気で1本失い、退職。(朝日新聞熊本版2002年5月9日付)
こんな人が青いTシャツを着て自分の近所をチャリンコで通る。少しでも役にたちたいと思うのは当然だろう。沖縄を出発したXさんは、行く先々でマスコミに取り上げられ、それを見た人が寄付するという「善意の輪」がつながっていく。『朝日新聞』だけでも岡山版(6月8日)、奈良版(6月26日)、三重版(6月23日)、京都版(6月29日)、滋賀版(7月1日)、福島版(8月8日)、北海道版(8月25日)、秋田版(9月3日)、山形版(9月14日)と紙面をにぎわせて、時には立ち寄った先では講演なども行った。
だが、ほどなくこのXさんが医師免許を持っておらず、カンボジアやインドネシアうんたらかんたらというのもすべてつくり話だったことが明らかになる。ご本人はこんな釈明をした。
「医療活動」というつもりだったが、それが医師であるかように伝わり、訂正しないまま、自分でもその話に帳尻を合わせてきた。(朝日新聞9月28日)
「現代のベートーベン」とも呼ばれた佐村河内さんにも重なる苦しい言い訳だが、それよりもXさんに「善意」を託した人たちがショックを受けたのは、「平和村」構想までまったくのデマカセだったことだ。「希望を語ったことが実現できるように伝わってしまった」というXさん自身の言葉からも分かるように、「こんなこといいな、できたらいいな」というレベルの「善意」だったのである。
●マスコミが詐欺話を見抜けなかったワケ
賢い人たちがたくさんいると言われる日本のマスコミが、なぜこんなしょうもない詐欺話を見抜けず、ドミノ倒しのように誤報の山を築き、募金詐欺の片棒を担いでしまったのか。
最大の理由は、「マスコミはマスコミが報じているものに対しては裏をとらない」という構造的な問題もあるが、日本人の「善意の人は疑ってならぬ」という信仰にも近い思い込みも無関係ではない。
「善意」は素晴らしい。人に生きる力をくれるし、社会に希望を与える。しかし、それを「正義」だと盲目的に信じて、他者に押し付け始めるとおかしなことになっていく。
24時間以内に3人指命だとかいう「アイスバケツチャレンジ」に多くの人が違和感を覚える理由はそんなところにあるのかもしれない。
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