知られざるイチローのスペイン語力―ラテン系選手との絆深める
米大リーグのシンシナティ・レッズのベテラン遊撃手ラモン・サンティアゴは、2003年にヤンキースのイチロー外野手と初めて出会ったときの驚きを思い出す。それは、当時イチローが所属していたシアトル・マリナーズと、サンティアゴがいたデトロイト・タイガーズとの試合だった。先頭打者のイチローが安打で一塁に出ると、すかさず二盗に成功。スライディングから立ち上がると、サンティアゴを見て、無表情でスペイン語で「No corro casi」とつぶやいた。大ざっぱに訳すと、ドミニカ共和国出身のサンティアゴにイチローは自身の走塁について「きょうは速くないな」と話したのである。
サンティアゴの笑いが止まる前に、イチローはその重い足で三塁を陥れた。「彼は英語の場合いつも通訳を通じて話していたので、それほど流暢にスペイン語を話すとは想像もしていなかった」とサンティアゴは振り返る。
日米で衝撃的な記録を達成してきたイチローは、スタンドと同様にフィールドでも国際的なファンを獲得している。それだけでなく、彼は塁上でしばしばスペイン語で気の利いた言葉を口にすることで、大リーグのラテン系選手から一目置かれている。
試合をじっと見ていると、ラテン系の内野手が出塁したイチローのところにわざわざやって来て、冗談を言い合うシーンに出会うことがある。選手の中には記念品をせがむ者もいる(トロント・ブルージェイズのマイサー・イズトゥリスは、イチローのサイン・ボールを、タイガーズのビクター・マルティネスはサイン入り写真を持っている。そして、ワシントン・ナショナルズのアズドルバル・カブレラはイチローのサイン入りバットを所有している。いや、それを試合で折ってしまうまでだったが)。
テキサス・レンジャーズのベテラン一塁手カルロス・ペーニャは、イチローとのやり取りの1つを思い出す。ペーニャがタンパベイ・レイズの一塁手だったとき、イチローが内野安打で一塁に立つと、ペーニャをじっと見つめてから尋ねた。「Que cono tu mira?」、つまり「おい、何を見てるんだ」。ペーニャは笑い出さないよう必死で口を結んだ。
イチローは、そのストイックなイメージに反し、ラテン系の選手とどうしても交流したくなるという。「彼らには親近感を持っている。僕たちは見知らない土地の外国人だ。ここにやって来て、同じような困難に打ち勝っていかなければならなかった。多少かじったスペイン語で話しかけると、本当に喜んでくれて、彼らと絆を深められるような気がする。日本語には汚い言葉がないから、西欧の言葉で、日本語では表現できないようなことを言ってしまうのが楽しいんだ」
マリナーズ時代にチームメートだったカンザスシティ・ロイヤルズのラウル・イバネスは、イチローがスペイン語の教科書を勉強したり、家庭教師について学んだりしているのを見たことがないと話す。イバネスによれば、イチローはスペイン語の言い回しをスポンジのように吸収し、試合の準備のときのように細かい点まで気をつける。イバネスは「イチローは観察が鋭く、頭も切れるので、スペイン語をあっという間に身に着けてしまう」と感心し、次のように語る。「彼は、ラテン系の選手が話していると耳をそばだて、我々が言った通りにオウム返しして、『どういう意味?』って聞いてくるんだ。彼は何でも完ぺきにやろうとする。スペイン語を話すときもそうしたいと思うのは分かる」。
イチローが外国語の習得に遠慮がないとするならば、それではなぜ彼は今も英語の通訳を使うのか。イチローは「それはまったく違う話だ」と話し、こう続ける、「僕がインタビューを受けるときは、人々は僕の英語の話しぶりを聞きたいのではなく、僕がどう思っているのかとか、どのような意気込みを持っているのかを知りたいのだと思う。僕がうまくない英語で話せば、人々の思いにしっかりと応えられないだろう。僕がしくじればその場はおもしろいかもしれないが、人々は僕がどう思っているのかを心底知りたいから尋ねるのだ。だから、母国語で答えたほうが、自分の考えを正確に表現できる」
ただ、試合中の短いやり取りは非公式なものであり、自然な形で表現できる。だからイチローは喜んでそれに適用しようとするのだ。
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