【新連載】“合法生肉”時代が到来! サイドメニューから主役に躍り出るか?
霜降り至上主義から一転、ヘルシーフードとしての肉の価値が見直され、「焼肉界」は空前の赤身肉、熟成肉ブームを迎えている。新連載、「たべあるキング」の食のトレンド大捜査――栄えある第1回は、焼肉探究ユニット「YAKINIQUEST」のメンバーgypsyさんが、ポスト赤身肉、熟成肉ブームを語る。
熟成肉
●基準が厳しすぎて生肉が消えた!
編集部(以下、編): 赤身肉、熟成肉といえば、この5月に吉野家までもが材料肉の熟成期間を延長して、熟成肉ブームに参入。高級品だった熟成肉の価格破壊も起こって、ようやく庶民も気軽に堪能できると喜んだ矢先なんですけど。
いえ、すでに赤身肉、熟成肉のブームは下火です。つぎなるブームの主役は、赤身や熟成とはまったく毛色の違うメニュー「合法生肉」。ご存じのように2011年4月にユッケの食中毒事故が起こり、焼肉界に激震が走った。これを受けて12年の6月には食品衛生法などが改定されて、レバ刺しを提供するのも、食するのもアウトになりました。ただし、全面禁止されたのはレバ刺しだけで、問題を起こしたユッケなど他の生肉は、調理方法などの基準を満たせば、実は提供することが可能だったんですね。
熟成肉
編: レバ刺しの「さよなら需要」で、基準改定前夜の焼き肉店に行列ができたことが思い出されますね。でもそれ以来多くの焼肉店から、レバ刺しだけでなく、ユッケなどの生肉もパッタリと消えたのはなぜ?
新基準が厳しすぎて、どの店もパスできなかったというのが真相です。基準には2種類あって、まず生肉の加工方法ですよね。食中毒の菌が付着するのは肉の表面だけなので、表面から1センチ以上を60度で2分以上加熱して、それを取り除いて提供する「トリミング」という方法が義務づけられた。
これだけならややコスト高になっても提供したい店は多かったでしょう。でも基準では、その肉を調理するための場所にまで細かな基準が設定されたんです。たとえば包丁や作業台、シンクなどは専用のものを用意することや、しかるべき消毒設備の設置など生肉を出すために調理場の改装を必要とする店がほとんどだったんです。
さらに店の調理場だけでなく、肉の加工場にまでさかのぼって、あれこれ条件が加えられた。たまたまそうした条件をクリアして、生肉を提供できる店なんて皆無。つまり合法的に生肉を出せる店がなくなったんです。
暗黒の“脱法ユッケ”時代は終焉
編: レバ刺しと一緒に、ナマはまとめて法的NGになったわけじゃなかったんですね。
そう。そこを勘違いしている人が多いんですが、生食が危険なために禁止されたのはレバ刺しだけです。実はそのほかの生肉では、法を犯さないさまざまな“代替品”が登場していました。基準を満たしたユッケをパックした「パックユッケ」も出回りましたね。店は調理不要、袋を空けるだけで提供できる。でも既製品ですから、店のオリジナリティも出せない。味気ないですよ。また内部だけ生で提供できるローストビーフをメニューに加える焼肉店が増えましたよね。
同時にあの手この手の「脱法ユッケ」も横行した。そんな混乱期を経て、ようやくその暗黒時代が終わったのが昨年末。合法生肉時代の夜明けですね。
編: とうとう明けましたか!
基準をクリアした加工場の肉を使い、店の調理場も新基準をクリアできるように設計された合法生肉系の焼肉店が、ここのところ増えてきています。私の知る限り、東京で初めて「合法生肉」の名乗りを上げたのが、西麻布の「十々」。基準が改正されて数カ月後には保健所の許可を取り付け、ユッケなどの生肉を提供しています。
初めから基準をクリアする調理場を用意してユッケなどを売りにするニューオープンの焼肉店も出店ラッシュが続いています。草分けと言えるのが末広町にある「生粋(なまいき)」。恵比寿や六本木の「KINTAN」や目黒の「焼肉 稲田」など、早くも焼肉界でその話題となっているお店も少なくない。
●個性派ユッケが続々登場する?
編: 合法生肉として「帰ってきたユッケ」は、安全になったことはもちろん、これまでのサイドメニュー的な立ち位置も、変わったんでしょうか。
「合法」のお墨付きをもらうために、店側は大変な投資をしているわけですからね。これまでのように切って出すだけのサイドメニュー、というような位置づけではもったいない。一品の花形メニューに育てるべく、さまざまな一手間を加える店も多いんです。
まず基準は満たしているにしても、より素材を厳選してフレッシュな素材を使うように心がけている店が多いというのが、合法店の特徴としてひとつあるでしょうね。合法生肉はトリミングして破棄する部分が出ますから、メニューの価格も、規制前よりだいたい1~2割上昇しています。その分素材を選ぶ目を厳しくしているという店も少なくないですね。
こうして素材だけでも規制前よりおいしくなっているだけでなく、調理にも一手間かける店も増えた。たとえば大きな流れといえるのが、タレのバリエーションです。これまでユッケといえば、醤油がメインの調味料でしたが、合法時代に入ってから、オリーブオイルとハーブのイタリアン風、豆腐と和えた「白和えユッケ」、納豆と混ぜた「納豆ユッケ」など、ユッケの新たな可能性を探る新メニューが続々登場してきています。
編: 焼肉店の生肉を取り上げられてかれこれ2年ですから、飢餓状態だった客からの注目度も高いですよね。そのなか生肉はどんな進化を遂げていますか?
ユッケにする部位を全面に打ち出して、ユッケのバリエーションを広げる流れもある。たとえば「ザブトンユッケ」とか、「サーロインユッケ」とか、「ヒレ刺し」とかですね。
かたやこうして合法生肉メニューが増えてきたことで、「これ、生でも食べられますよ」とこっそり客に耳打ちするような脱法系生肉はヤミに葬られるはず。審査をパスした生肉を提供している合法店は、サイトにその旨が必ず明記されているので、心配な人はチェックするのもいい。いずれにしても合法生肉から目が離せない状態。私自身も今後のユッケの次なる展開に期待大です。
(構成/福光恵) gypsy 覆面・匿名の焼肉探究ユニット「YAKINIQUEST」の創設メンバー。年100店以上の全国焼肉店に出没。ときには肉の生産地にまで足を運び、牛の餌や飼育環境チェックもおこなう、ロジック系焼肉マニア。
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