焦点:ブラジル大統領選、急浮上のシルバ氏勝利はなお不透明
[サンパウロ 1日 ロイター] - 10月のブラジル大統領選では、野党・ブラジル社会党のマリナ・シルバ元環境相が現職のルセフ氏を打ち負かしそうな勢いだ。ただ、シルバ氏側も選挙戦で大きな失態を演じたほか、対立候補やメディアも攻撃を強めており、戦況はなお予断を許さない。
世論調査では、決選投票にもつれ込んだ場合の得票率予想は、シルバ氏がルセフ氏を約10%上回って首位となった。
この快進撃を好感してブラジル株は過去3週間で10%上昇。ルセフ氏よりもシルバ氏の方が経済界寄りで、低迷する景気を浮揚してくれるとの期待が背景にある。
シルバ氏は人口2億人の大国を治めるだけの器量や組織的支持を欠いているのではないかとの懸念もあるが、シルバ氏は先週以来、そうした疑問に答えることに成功を収めつつある。
反体制派の偶像的存在であるシルバ氏は、ゴムの樹液採取を生業とする貧しい一家で育ち、10代には独学で読み書きを習得、その後アマゾン川流域の熱帯雨林を保護する活動の第一人者となった。その熱心な態度と倫理問題をめぐる明確な発言は、多くのブラジル国民の心をつかんできた。
それでも多くの有権者は、シルバ氏の偉大な立身出世物語が偉大な大統領としての資質に直結するかどうか、確信を持てずにいる。
シルバ氏は政治家としてのキャリアにおいて仲間集めとその維持に苦戦。2009年以来、2つの政党を離れ、3つ目の結党には失敗した。
シルバ氏はこれまで、考え方がころころと変わり意思決定が予測しづらかったとして警戒されている。加えて、若いときにマラリアと水銀中毒を患ったせいで虚弱な体質であることも要注意点とされる。
しかしシルバ氏は、テレビやソーシャルメディアの広告でこれまでより冷静かつ包括的なトーンを打ち出そうとしている。3位に終わった2010年の大統領選で、環境問題一点張りの素人じみた闘い方をしたのとは様変わりだ。
加えてシルバ氏は、公的財政に秩序を取り戻すと約束し、幅広い投資家層とも会談を重ねている。29日にはブラジル経済の約4分の1を占める農業ビジネス分野の指導者らと夕食会を持った。この産業は伝統的にシルバ氏と対決してきた勢力だ。
夕食会に出席したブラジル農業協会のエクゼクティブ・ディレクター、ルイス・コルナッチョーニ氏はロイターに対し、「数多くの神話が破られた。彼女は対話にオープンで、農業ビジネスの重要性を理解している人物だというのがよく分かった。私はとても好意的な印象を持った」と語った。
シルバ氏が存在感を増しつつあることが最もはっきりしたのは、先週の候補者討論会かもしれない。シルバ氏はルセフ大統領に対し、昨年全国に街頭デモが広がった際、なぜ改革を棚上げしたのかと直接問いかけた。
大統領は、議会に一部の提案を阻まれたが、市民が不満を訴えていた学校のおそまつな状態などは改善されたと返答。シルバ氏はおもむろにカメラを見据えると、「政治家であるわれわれにとって重要なのは、わが国の問題を認識することです。ルセフ大統領が描いて見せるきらびやかなブラジルは、映画の中にしか存在しません」と語りかけた。
<公約を突然修正>
シルバ氏の成熟ぶりからは、世論調査での躍進が持続的なものであり、社会党が擁立していたエドゥアルド・カンポス氏が先月、飛行機事故死したことへの同情票だけではないことがうかがえる。
しかし、シルバ氏の勝利が既定路線になったかのようなウォール街やサンパウロ金融界の見方は時期尚早だろう。
シルバ氏の支持率は上昇の時と同じくらいのスピードで下落しかねないと見る専門家もおり、先週はその理由がうなずけるような出来事があった。
社会党は週末にシルバ氏の公約を鳴物入りで発表したが、直後に1度ならず2度までも「修正」を迫られたのだ。ブラジルのメディアによると、1つは同性愛者同志の結婚への支持を、牧師の批判を受けて撤回したこと。2つ目は原子力発電を支持する文言を削除したことだ。
いずれもブラジル有権者の関心は薄い論点だが、シルバ氏は不安定で組織力が弱いとの見方を裏付ける結果となり、日曜の新聞は1面で修正を書き立てた。
多くのブラジル国民はインタビューされるとシルバ氏が好きだと答え、世論調査では投票の意思も示す。しかしシルバ氏の安定感を疑わせるような出来事が度重なるため、多くの人はまだ態度を決めかねているのが実情だ。
一方、新聞はシルバ氏が最も強みとする点、つまりこれまでとは違うクリーンな政治家というイメージを突き始めた。8月31日のフォリャ・ジ・サンパウロ紙は一面で、シルバ氏が過去3年間に講演料として約72万ドルを稼いだと報じた。
故カンポス氏が乗っていた航空機は、シルバ氏がしばしば攻撃するような怪しい政治献金によって取得したものだ、とする報道も出た。社会党はこれを断固として否定している。
さらには、カンポス氏への哀悼から攻撃を自粛していた対立候補も、ついに戦闘態勢に入ろうとしている。
ルセフ大統領は8月31日、これまでで最も直接的な攻撃を仕掛けた。シルバ氏の公約に盛り込まれた産業界に対する提案は、ブラジルの貿易を大きく解放して大規模なレイオフをもたらしかねず、「非常に憂慮」していると述べた。
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