消えた「ハイスコアガール」…スクエニ、著作権“なあなあ認識”のツケ
ヒット作を連発するゲームメーカーでありながら、なぜこんな事態に…。「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」などの製作で知られる大手ゲームソフト開発会社「スクウェア・エニックス」(東京)が8月5日、大阪府警の家宅捜索を受けた。発行する月刊誌で連載中の漫画「ハイスコアガール」(押切蓮介氏著)の中で、他社のゲームキャラクターを無断使用したとされる著作権法違反容疑だ。魅力的なキャラクターが活躍するゲームを製作・販売しているスクエニ社だけに、著作権には敏感な気がするのだが、無断使用は100カ所以上とされ、使われた側は「極めて悪質な行為」と怒り心頭だ。スクエニ社は「違反の認識はない」との立場を取り、府警の捜査もこれからだが、「お騒がせした」とのことでスクエニ社は単行本などを回収。ハイスコアガールは書店の本棚から姿を消した。
■無意味な(C)マーク
1990年代。格闘ゲーム全盛期だった当時、日本全国を異様な熱気が覆っていた。
「ストリートファイター」
「バーチャファイター」
「ザ・キング・オブ・ファイターズ(KOF)」
ゲーム各社が次々と世に送り出す新作格闘ゲームに、子供から大人までが夢中になった。
そんな時代を舞台に描かれたのが、今回問題となった漫画「ハイスコアガール」。スクエニ社が発行する月刊コミック誌「月刊ビッグガンガン」で連載されているラブコメディーで、ゲームマニアの主人公が、作中で当時ブームになったさまざまな格闘ゲームをプレーすることで、物語が展開していく。
必然的に、格闘ゲーム黄金期を支えたゲームソフト販売・開発会社「SNKプレイモア」(大阪)のKOFや「サムライスピリッツ」「餓狼伝説」といったゲームが何度も登場するのだが、実はこれ、SNK側に無断で使用していた疑いが浮上した。
ハイスコアガールの単行本では、巻末に「SPECIAL THANKS」として、SNK社など作中に登場するゲーム会社名が列挙され、(C)マークとともに各社の会社名が記載されていた。一見、許可を取っているかのようだ。
ハイスコアガール
しかし、文化庁によると、(C)マークは元々、著作権が登録制だった海外の国において、すでにそれが他国の著作物であることを示すために使われたマークだった。現在は登録制の国が少なくなり、(C)マークの本来の意味も失われた。最近は、単に著作権者が誰かを表すために使われることが多いという。
つまり、「SPECIAL THANKS」と書いてあったり、(C)マークを付けた会社名を記載していても、それは必ずしも許可を取った証しではなかったのだ。
■ゲーム会社で扱いに差
著作権法では、著者の許可なしに著作物を複製することや、変型したり脚色したりすることを禁じている。一方、「公表された著作物は引用して利用することができる」とも規定されている。
ハイスコアガール
「無許可」と「引用」の違いはわかりにくいが、昭和55年の最高裁判決は、引用について「引用する側とされる側を明瞭に区別して認識することができる」と判示。また、著作権に詳しい藤川義人弁護士(大阪弁護士会)によると、引用は「自分の著作物を説得的なものにしたり、補足説明したりするものとして引っ張ってくる」こと。作品の中であくまでも一つの材料として使われるにすぎないのが引用、ということだろう。
だが、ハイスコアガールの場合、SNK社のゲームキャラクターは単に例示されるような存在ではなく、作品世界や登場人物の性格を浮かび上がらせるような、重要な役回りを演じているように読める。藤川弁護士はハイスコアガールについて「引用にはあたらないのではないか」と指摘する。
この点について、スクエニ社はどう考えていたのだろうか。取材に対し、「著作権侵害の事実はないという認識だ」と回答したが、作中に登場するゲームの全ての許諾を取っていなかったわけではなかったのだ。
たとえばゲーム大手「カプコン」(大阪)。同社のゲーム「ストリートファイター」も作中で数多く登場するが、連載開始時から使用許可を取っていたという。「ドラゴンスピリット」などが使われた「バンダイナムコゲームス」(東京)も同様だ。
また、「バーチャファイター」などのゲームが使われた「セガ」(同)は、担当者によると、約2年前にスクエニ社が申請にやってきた。しかし、すでに連載は始まり、一部のキャラクターが無断で使用されていたため、セガ社は「厳重に抗議した」。
ただ、ゲームのPR効果も期待できるとして、今後はキャラクターが使用されている部分を事前に確認することを条件に、許諾したという。
結果的に、SNK社とこれらの社との間では対応が異なっていたことになる。
■“なあなあ”の著作権
「個人的な利用でなく、商品化されて販売対象になるものであれば、曖昧な対応では許されない」
前出の藤川弁護士は今回の事件についてこう述べた上で、「日本は優れたコンテンツを生み出しているのに、著作権に対する意識が高いとはいえない」と、著作権法の厳格な適用という視点を提示する。
日本の漫画やアニメ、ゲームは近年、高いクオリティが「クールジャパン」と呼ばれて海外で評価され、日本経済を支えるコンテンツ産業として期待されている。だが、海外ではこれらを違法にコピーした海賊版が横行。文化庁が昨年公表した推計では、中国の4都市だけでも、海賊版による被害は約5600億円に上った。
元文化庁著作権課長で、政策研究大学院大の岡本薫教授(政策科学)も「海外で海賊版がなくならないのは、著作権者が裁判所に訴えないから。日本人が訴訟を嫌うことが背景にある」と指摘する。
著作権をめぐる訴訟件数は欧米に比べると圧倒的に少ないといい、「国内での判例の積み重ねがないために、著作権の保護範囲が不明確なのが現状だ」。
違法だと思ってもなかなか訴えないこと、そして訴えないがために違法のボーダーラインが曖昧なままであること。これらの理由から、日本の著作権は、使う者、使われる者の間で「なあなあ」で運用されてきたという。
今回の事件で、スクエニ社は「お騒がせしてしまったため」として、ハイスコアガールの単行本や公式ファンブックの自主回収と、電子書籍の配信停止を決定。その後、月刊誌での連載を一時休載すると発表した。
著作権をシビアに捉えず、「なあなあ」で運用してきたツケが読者らに回るのだとしたら、それは本末転倒である。
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